吉田一郎不可触世界
吉田一郎不可触世界。
ZAZEN BOYZというバンドがある、あのNUMBER GIRLのボーカル向井秀徳が率いるバンドである。
その圧倒的なカリスマ性に彼のワンマンバンドと思われがちであるが、彼が体現したい音楽を一糸乱れぬ演奏によって支えているバンドメンバーの力があってこそ、彼が彼らしい音楽を出来る。
そんなバンドの一員である、ベース、吉田一郎がアルバムをリリースした。その名も「あぱんだ」
あぱんだとはギリシャ語で「本の全集・全作品」という意味である。
今回の10曲、中一から作り続けている楽曲たちらしい。
中一からこんな音を作れるのは良い意味で変人としか言えない。
M1「ルール」において”甘い実はもう残ってないって知ってて、苦いのを食べなきゃいけないルール”、いきなりネガティブである。
しかし、吉田一郎の声で語られるとこれがあたかも普通であるかと思われる普遍性。
彼の声がなせる技である。
M2「見慣れた街」では間奏の演奏で魅せる。
ベーシストらしからぬシンセの使い方、そしてギターのソロ、まるでミクスチャーバンドを彷彿とさせる、音、そして転調。
2曲目にして全ての手の内を見せている気がする、大丈夫か吉田一郎。
M3「ピザトースト」
もう驚きである、まさかのラップ。
そして絶対にラップ一本、バンド一本では出すことの出来ないビートが刻まれる。
この曲でも転調が使われる。
そしてこのラップこそ、このアルバムにおいて重要な役割を果たす。
M4「たまプラーザ」では、季節の移ろいを嘆く、哀愁のある歌詞、そしてサビのリフ、メロディがついつい口づさみたくなってしまう。
「雨上がりなんてさ、ふりやまないでくれよ、もっと降ってくれよ。」
M6「眼と眼」
シンセの音がメランコリック、しかし、ところどころ入る、人力ディレイがなんともおどろおどろしい印象を与える。
M7「暗渠」
このアルバムの代表曲、サビの入りがとてもキャッチーそして畳み掛けるようなラップもところどころに入ってる、全てがグッドなおんがく。
M9「あぱんだ」
M10「燕の啼く海」
最後の最後にこんなアッパーチューン、こんな曲も書けんのかよ、最強かよ、あんたと言いたくなる、なにこの疾走感、インストなのにとてもメロディアス、toeとかteにひけをとらないぜ、これ。
吉田一郎が音楽センスの塊であることを感じさせるアルバム。
ってか雰囲気が他のアーティストのアルバムとはまったく違う。
多分意図的にそういう作り方してるんだろうなとは思っているが、何なんだろうな重々しい雰囲気の中で唯一、ギターやシンセの音だけがくっきりとしている感じがとてもしている。
陰鬱な世の中を切り裂くように。
そしてMATSURI STUDIOで録音されている影響はとてもあると感じられる。
恐らく向井秀徳の影響はモロに受けているだろう、しかし、それを吉田一郎なりに解釈し、再構築している感じ、実際は吉田一郎が作製したものを向井が聞いているのだろうが、私には逆に感じる。