帰ってきたDeerHunter、帰マン風に言うと帰Hun
DeerHunterが帰ってきた。
DeerHunterが2013年「monomania」以来の新譜をリリースした。
帰ってきたというのは単に新譜を出したから利用している言葉ではない。
前作monomaniaでは50年代、60年代のアメリカ音楽へのBradford Cox自身が抱いていた気持ちをアルバムに込めたものだった。
更にサウンドとしては音を単調にし、50年代のロックンロールのようではったが、歌詞としてはとても暗いものだった前作。
しかし、今回の「Fading Frontier」はそんな前作とは180度、サウンドも歌詞も何もかもが違う、本当の彼らの音が帰ってきたのだ。
その要因は2点ある。
1点目は前々作「Halcyon Digest」のプロデュースを手掛けた、Ben Allenが今作もプロデュースをしていること。
もう1点はBradford Coxの私生活での大きな事故。
後者に関して彼はPitcfork紙上のインタビューにおいて「療養の日々で新たな気持ちであったり、自分の人生を振り返る時間を得たんだ、そしてDeerHunterというバンドをどうやって動かしていくかに関してもすごく考えることが出来た。」
そして始まったこのアルバムのレコーディング、このアルバムはアトランタで作製された。
ギターのLockett Pundtはこのレコーディングを振りかえりこう発言している「今までにないぐらい気楽な気持ちでこのバンドに参加しているよ、僕らは家族のように毎日を過ごしている、お互いに困難があれば助け合い、お互いを祝福しているよ。」この言葉からもこのアルバムが今までのDeerHunterのアルバムとは一線を画す物になるのは想像に易い。
まずはジャケットが今までのダークな物とは違う。
南半球のどこかの海を荒廃的な家の中から窓越しに見ている、このジャケットにDeerHunterとしてこれからどのように活動していくかが見て取れる、海原へ飛び出す。
そして実際にアルバムを聞いてみる。
まず、前述のように前作とは全く違うサウンド、今作はメランコリックであり、かつドリーミーである。
BREAKERでは”再び波を砕く、努力してみるけど、海は力強いんだ、その流れを止めることはできない”と繰り返し歌いつつ、最後には”そして死ぬときは、自分は努力をした以外には、何も言うことはない、流れを食い止める努力をして、あと一日だって無駄にしたくない”と歌う、彼が事故において受けた死生観が見て取れる。
ちなみにこの曲のサビのメロディが大好きである。口ずさみたくなる。
Deerhunter - Breaker - YouTube
今回のリードトラックである、Snakeskinが唯一の前作踏襲型の作品と考えてよいだろう。
Deerhunter - Snakeskin - YouTube
Take Careではローチューンにのせて”君は何を望んでいるの?、ただボーっと突っ立っているだけじゃダメなんだ”とこれからの決意を語る。
今作のリリックは前向きなものが非常に多い、そしてこれもBradford Coxの生き方が変わったことを示している、デビュー10年目を迎えたDeerHunterはこれからいい方向へ向かっていくだろう、そんなことを予感させるとてもピースフルなアルバムとなっている。